京極夏彦/死ねばいいのに

現代版の京極さん、楽しみにしてた。これを書きながら何かに似てるなーと思てた。あれだ、鉄鼠の檻だ。そりゃ好きなタイプやわ。




1人目

健也という男性が、山崎を訪ねてきた。亜佐美さんのこと知ってるよね?どんな人だったか教えて欲しいと。彼女は3か月前に殺された派遣社員で、山崎の下で働いてた。最初は部下だというだけだと言っていた山崎。関係があったよねと言うと、亜佐美の方から誘ってきたと。

亜佐美さんは性悪な男たらしだったのか?と聞くと違うという。じゃなかったら、真剣だったのか?と聞くとそうだと。真剣だったのなら、山崎に妻と別れて欲しいと言った?と聞くとそんな事は言われなかったと。

山崎は遊びじゃなかったというが、妻子がいて別れ話は出ていない。愛しているが、愛した女性の為に動こうとはしていない。それを言われると、大人にはいろいろあるんだという。仕事でも家庭でも居場所がないと嘆く。

亜佐美さんは何を考えて、山崎と付き合っていたんだろう。わかったのは、山崎の不満だけ。


2人目

亜佐美の隣に住んでいた篠宮カオリさんに、健也は亜佐美さんの事を聞きに行く。カオリさんは亜佐美と同じ派遣会社に登録してた。学歴も資格もない亜佐美が、何故かいい条件の会社に何度も派遣されてた。篠宮が言うのは、亜佐美は男関係がだらしなかったと。それで仕事を貰っていたのではないかと。

いろんな事をあきらめて勉強したのに、希望の会社には入れず自分より若い亜佐美に仕事があるのに、自分には仕事が回ってこない。

挙句、彼氏まで亜佐美へ行ってしまう。カオリさんは、嫌がらせのメールを自宅にも会社にも送っていた。何故、自分だけがわりを食うのか。

健也が亜佐美さんと知り合ったのは、カオリさんの元彼氏に付きまとわれて困っているのを助けたからだった。亜佐美さんは彼氏をとったわけじゃなかった。逆に迷惑してた。亜佐美さんは、迷惑している事をカオリさんには話してない。カオリさんの元彼に迷惑してるのに、それをカオリさんには言わず、離婚を要求するわけでもなく、妻子ある男性と付き合う。彼女は何を考えて、生きていたのか。


亜佐美さんはどんな女性なのか

健也は6人の人達を次々と訪ねる。亜佐美さんはどんな人なのか、何を考えて生きてたか。けれど、6人の人達は自分の不満や不平は言うが、彼女の事は誰1人答えられない。

答えられなくても不思議はないのだが、答えられない6人の話から亜佐美さんの姿がぼんやり浮かんでくるのが面白い。健也は自分は馬鹿だからと言いつつ、会話の中で率直に疑問に思った事を言う。

愛してるというのに、何故彼女の為に動かなかったのか?と山崎に問い、学歴も容姿もいいのに、何故不満だらけで悪い事は全部人のせいにしているのかと、篠宮カオリに問う。

世間で言う常識に惑わされず、自分の頭で考えてる健也。彼と6人の間で交わされる会話は、わりときつい内容もあるのに何故か暖かい。人はみんな愚かだけど、それでも生きたいと願ってる。生きたいと願うのは先に未来がある。希望がある。だから暖かいと感じるのかな。

亜佐美さんの事が知りたくて話を聞きに行くのに、みんな自分の事しか話さない。皆わからない。否知らない。

どう考えても幸せとは思えないのに、亜佐美さんは今が一番幸せかもと言った。健也は、それが理解できなくて、彼女の事を知りたいと話を聞いてまわっていた。

言っている言葉は、言葉としては理解できるんだろうけど実感として理解できない。健也には怖い事だろうけど、読んでる方は面白かった。