プール/言葉にしない方が伝わる事

プールのある景色がとてもきれいで、ゆったり時間が流れる。
そこに集まる人々のそれぞれの思いが、丁寧に描かれている。




娘が母を訪ねてきた


大学の卒業を目前にして、さよは母を訪ねる。
母京子は4年前、チェンマイのゲストハウスで働く事といい
日本を後にしていた。
迎えに来たのは母ではなく母と共に働く市尾という青年だった。
そして、やっと母に会えた時、母はゲストハウスでビーと言う少年と
ゲストハウスのオーナー菊子と暮らしていた。

はじめての人達の中で、戸惑う小夜。
何故、母は私をおいてチェンマイに行ってしまったのか。
実の娘の私が一緒に暮らせないのに、何故母は少年と暮らしているのか。
ビーに罪はないのに大人げない態度をとったさよはもやもや。


ゲストハウスの人達


ビーにやきもちをやいていた小夜は、ビーを連れてきたのが菊子だと知る。
ちょっと冷たい態度をとってもビーは態度を変えないので、
さよはビーと仲良くなってしまう。

市尾をつれてきたのも菊子で、ビーの母を探させたのも菊子でした。
だがそれは裏目に出てしまう。ビーの母親は引き取りたくない様子。
その様子を見たビーは母じゃないと言い、市尾はビーを傷つけたと落ち込みます。

母と暮らせないビー。余命宣告を受けている菊子。
どうしようもない現実を前に、それぞれが相手を思いながら暮らしている。
その中で、さよは少しずつ心がほぐれていくのを感じる。


母にぶつけたさよの思い


市尾が作った鍋を囲んで、さよは京子に思いをぶつける。
何故、自分をおいて行ったのか。
それに対して母京子は、直接的な返答をしない。
娘をおいてチェンマイに行くことが、母のしたかった事なのかと聞かれ
好きな事をする方がいいと思うのよ、という京子

無責任じゃないのか。私がぐれたかもしれないよとさよは言う。
その時考えて出した結論だからね。
あなたはぐれないわよ。私はあなたをしってるものと京子が返す。


言葉にしなかったこと

あなたが大事よとか、仕方なかったのよとか
無責任でごめんねとか言わない京子がいい。多分、どれも違う。
4年前、さよは高校を卒業する頃。
もう母親がそばに居て世話をやかなくてもいい年齢になっている。

だからこそ母は子離れし、娘の親離れの時期にした。
子離れする母も後ろ髪惹かれる思いだっただろう。
娘はまだ少し母に甘えたかったのだろうな。
きっかけを母が作った事にさよは気付いたのだろうか。



帰国

別れ際、京子はさよに自分で刺繍をしたストールを渡す。
あなたが大事よと口だけならいくらでも言える。
あの時、そう言われたとしてさよはその言葉を素直に
信じられなかっただろう。その代りに、母は自分が出来る事をした。
娘を思って時間をかけて刺繍した。それが母の気持ち。

親子でも、人が人に出来る事はそんなにたくさんはないのよ。
そう言いたげな刺繍のストール。菊子さんが余命宣告をうけているのも重なる。
菊子さんの病を誰も直せない。誰も変わってあげられない。
人が人に出来る事はそう多くはないのよ。
だからこそ、寄り添い思いやる。

会話は言葉だけじゃない。
言葉の外にある言葉(変な書き方。表現が下手ね)が優しい。